前立腺がんと診断されたり、その疑いがあると言われると、「自分の余命はどのくらいなのだろう」「生活はどう変わってしまうのか」など、不安でいっぱいになってしまう方も多いのではないでしょうか。
実は、前立腺がんは早期発見や適切な治療によって、余命が大きく伸ばせる可能性があるがんの一つです。
本記事では、前立腺がんの特徴や治療法、ステージ別の見通し、そして日常生活で気をつけるポイントなどをわかりやすく解説し、少しでもその不安や疑問を解消できればと思います。
目次
前立腺がんのステージと余命の関係
がん治療において、ステージ(病期)は非常に重要です。ステージの進行度合いによって治療方針や予後(余命)が大きく変わります。
前立腺がんには以下のようなステージ分類(主にTNM分類など)があります。
ステージI(ごく早期)
- がんが前立腺内に極めて小さく存在する状態
- 症状がほぼなく、PSA検査や組織検査で偶然発見されるケースもある
- 治療によって5年生存率はほぼ100%に近い高水準
ステージII(早期)
- がんが前立腺内に限局しているが、腫瘍が少し大きくなっている状態
- 治療法の選択肢が広く、手術・放射線治療などを適切に行うことで長期生存が十分に期待できる
- 生存率は非常に高く、10年、15年と長期的に良好な経過をたどる患者さんも多数
ステージIII(局所進行)
- がんが前立腺被膜を超えて、精嚢など周辺組織に浸潤し始めている状態
- 手術だけでなく、放射線療法やホルモン療法の併用が検討される
- 治療計画次第では長期的なコントロールが可能であり、5年生存率も高水準で推移
ステージIV(転移あり)
- がんが骨やリンパ節などへ転移している状態
- 5年生存率は65.9%
- 治療の中心は根治よりも延命とQOL(生活の質)の向上を目標とする場合が多い
- 近年ではホルモン療法や新薬、化学療法の進歩により、より長い生存期間を期待できるケースが増えている
ステージIVまで進んだ場合でも、治療や状態管理によって数年から10年以上の生存が見込める方も珍しくありません。
特に前立腺がんはホルモン依存性の特徴があるため、治療の選択肢が多岐にわたることが生存率を高める要因ともいえます。
5年生存率は国立がん研究センターの情報をもとにしております。
がん診療連携拠点病院等院内がん登録2012年3年生存率、2009年から10年5年生存率公表
喉頭・胆嚢・腎・腎盂尿管癌3年初集計
前立腺がん治療の選択肢
前立腺がんの治療は、患者さんの年齢・体力・がんの進行度合い・希望するライフスタイルなどによって多様です。主な治療法を簡潔にまとめます。
1) 手術療法(前立腺全摘除術)
- ロボット支援手術(ダヴィンチ手術)も普及しており、低侵襲かつ精度の高いオペが可能
- 若年患者や進行度が低い場合に積極的に検討される
- 副作用として尿失禁や性機能障害などが出る可能性があるため、術後のリハビリやサポートが重要
2) 放射線療法
- 外部照射: 体外から放射線を照射する方法
- 小線源治療: 放射性物質を前立腺内に留置し、内部からがん細胞を攻撃する方法
- 手術に比べて体の負担が軽く、比較的高齢の患者さんでも受けやすい
3) ホルモン療法(アンドロゲン遮断療法)
- 前立腺がんは男性ホルモン(アンドロゲン)をエネルギー源として増殖する特徴がある
- ホルモン剤でアンドロゲンを抑制することで、がん細胞の増殖を抑える
- 進行がんや再発時にも効果が期待されるが、長期的には薬剤耐性が生じる可能性もある
4) 化学療法(抗がん剤)
- 転移が見られる場合やホルモン療法が効かなくなった場合に検討
- 副作用はあるが、近年は副作用を抑えるサポート薬や治療体制の向上によりQOLが向上
5) 監視療法(アクティブサーベイランス)
- PSA値や腫瘍の特徴から、がんが極めて小さいか進行が非常に遅いと判断される場合に行われる
- 定期的な検査(PSA値の測定・画像検査・生検など)を続け、必要があれば治療に移行
- 高齢の患者さんや合併症のリスクが高い方に適用されることも多い
こうした多様な治療法を上手く組み合わせ、患者さん一人ひとりの背景に合わせて最適な治療計画を立てることが重要です。
前立腺がんの早期発見が余命に大きく関わる
PSA検査の意義
前立腺がんの早期発見において、PSA(前立腺特異抗原)検査は非常に有用です。血液検査だけでチェックできるため、身体への負担もほとんどありません。
一般的には50歳以上の男性には定期的なPSA検査が推奨されることが多いですが、家族に前立腺がんの既往がある場合は40歳代から検討されることもあります。
早期発見のメリット
- 治療選択肢が広がる: 早期であれば手術や放射線療法など、根治的治療を選択しやすい
- 副作用を最小限に抑えやすい: 進行がんよりも治療範囲が限定されるため、術後や治療後の合併症リスクを抑えられる
- 生活の質を維持しやすい: 体への負担が比較的少なく、日常生活や仕事への復帰もスムーズ
定期健診でのPSA測定は費用がかかる場合もありますが、見逃すことで進行してしまうリスクを考えれば、定期的なチェックは有用といえるでしょう。
生活習慣は前立腺がんの経過、余命に影響がある
食生活の見直し
前立腺がんは肥満や食習慣などの生活習慣とも関連が指摘されています。特に脂質の多い食事や高カロリー摂取は、がんのリスクを高める可能性があるとされています。一方、野菜や果物、大豆製品を多く取り入れるなど、バランスの良い食生活は健康維持に役立ちます。
- リコピン: トマトやスイカなどに含まれ、抗酸化作用が注目される成分
- イソフラボン: 大豆製品に含まれる成分で、ホルモンバランスを整える働きが期待される
適度な運動
有酸素運動や軽い筋力トレーニングは、ホルモンバランスを良好に保ち、免疫力を高める効果が期待できます。前立腺がん治療中あるいは治療後でも、主治医の指示を仰ぎながら無理なく体を動かすことが重要です。
ストレス管理
がん治療中は精神的な負担が大きくなるため、ストレスを上手に解消することが大切です。リラックス法やカウンセリング、家族や友人とのコミュニケーションを通じ、心身ともにサポートを得る工夫をしましょう。
前立腺がん治療後の経過観察と再発防止
経過観察の重要性
前立腺がんの治療後は、PSAの値を定期的に測定し、再発の有無をチェックします。仮にPSAが再上昇した場合でも、早期に対応することで再発がんのコントロールが可能なケースも多くあります。
- 検査頻度: 治療直後は数ヶ月に一度、その後は半年から1年に一度程度が一般的
- 画像検査: MRIやCT、骨シンチグラフィーなどで転移の有無を確認する場合もある
再発防止のポイント
- 適正体重の維持: 肥満はがんのリスクを上げる要因のひとつとされる
- 禁煙・節酒: 直接的な要因とは限りませんが、がんのリスクを総合的に下げる生活習慣が望ましい
- 定期的な診察: 症状がなくても必ず受診し、PSA値などをフォローする
まとめと受診のすすめ
前立腺がんは「他のがんと比べて進行が緩やか」「ホルモン療法が有効」「早期発見で根治が期待できる」という特徴があります。
たとえ進行していたとしても、近年ではさまざまな治療法の進歩により、長期的な生存と生活の質の維持を両立できるケースも珍しくありません。
治療の選択肢が多いということは、それだけ患者さんに合わせた最適な方法を選べる可能性が高いとも言えます。
もし、以下のような方はぜひ早めに受診や検査を検討してください。
- 50歳以上の男性で、定期的にPSA検査を受けたことがない
- 家系に前立腺がんの患者さんがいる(遺伝的リスク)
- 排尿に異変や違和感を感じる(頻尿、尿が出にくい、残尿感など)
- 骨盤周辺に原因不明の痛みがある
前立腺がんは早期に発見できれば治療方法が豊富で、将来のQOLを保つことも十分可能です。
気になる症状がある場合や、健康診断でPSA値が高めと指摘された場合は、専門医(泌尿器科)の受診をおすすめします。
現在は泌尿器科専門クリニックや総合病院など、各地域で専門的に診療している施設が数多く存在しますので、迷ったときはまず地域のクリニックに相談してみると良いでしょう。
前立腺がんに関しては正しい知識と早期発見・早期治療が何よりもカギです。 ぜひ、定期検診の受診を検討し、少しでも「おかしいな」と思ったら医療機関に相談する習慣を身に付けましょう。
本記事は一般的な情報を提供するものであり、個々の症状や病状に合わせた診断や治療方針は専門医の判断が必要です。
健康管理や治療でお悩みの方は、遠慮なく当クリニック(またはお近くの泌尿器科)へご相談ください。
当院「ベテル泌尿器科」では、PSA検査を実施しております。前立腺癌をはじめとする泌尿器科全般のトラブルの診療に40年間携わってきた三熊医師が、患者様の症状やお悩みに親身に寄り添い、最適な治療法をご提案いたします。
周囲には少し聞きづらいような前立腺肥大症に関するお悩みをお持ちの方も、まずはお電話やメールにてお気軽にお問い合わせください。